『サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい』という書籍がベストセラーになったこともあり、「個人が会社を買う」ということがにわかにブームになってきています。
この本ではサラリーマンや個人事業主の方がM&Aという形で企業のオーナーになることをお勧めしているのですが、実際、企業を買収して独立することには様々なメリットが存在します。
今回は、個人が会社を買うメリットを整理し、実際に買収するとなった際に最も気を付けるべきポイントをまとめていきたいと思います。
メリット(1):大きく収入を伸ばせる可能性がある
言わずもがな、まず最初のメリットと言えば収入です。
企業のオーナーになることで、個人の収入の上限は実質的に無制限になります。
サラリーマンとして働いた場合、うまく出世し役員にまで上り詰めたとしても年収は2,000万円から3,000万円が関の山でしょう。
一方、中小企業のオーナーとして3,000万円以上の収入を貰っている人は山のように存在します。
社員を雇用している雇用者と、会社に雇用されている被雇用者では収入の概念が全く違います。
被雇用者の収入には、300万円であれば低い、1500万円だと高いと言った一般的な「相場」が存在しますが、企業オーナーにそのような概念はありません。
単純な話、会社で2億の売上が立ち、人件費含めたコストが1億円かかったとすれば、残りの1億円を自分の報酬にしてしまって問題はありません。
実際に、このように売上ベースでは小規模のビジネスに見えても年収は非常に高いという経営者はごまんと存在します。
収入の可能性、というのは個人が企業を買収してオーナーになるに当たって最大の魅力でしょう。
メリット(2):自分の裁量でビジネスを進めることが出来る
単純な金銭的魅力以外にも、働き方そのものを取ってみてもオーナーとなることには魅力があります。それは完全に自分の裁量でビジネスを進めることが出来るということです。
実際、企業の買収という形でオーナーとなり脱サラする中年層が増えていますが、理由として「自分の力を試してみたい」「自分の裁量で仕事をしてみたい」といった内容を多く聞きます。
サラリーマンというのは、自分で何かの仕事をしているかのような気持ちにはなっても、実際には会社の資産/人材/システム/取引先を使ったビジネスゲームをしているに過ぎません。
あくまで、用意されたパイをどう繋ぎ合わせるのかという作業をしているだけなのです。
それも、大きな判断になれば稟議という形であくまで会社の許可を元に進めていくことになります。
企業のオーナーはこれとは全く違い、ビジネスにおける全ての意思決定の最終判断を担うことになるのです。
社内でどのように説明を通すか、どのように確認をして進めていくかという問題は一切なくなり、ただオーナーの提示する施策が上手くいったのか上手くいかなかったのかという目で見える結果が返ってくるだけです。
ドライでシビアな世界ではありますが、本当の意味で全て自分の裁量で仕事ができるようになる。これはオーナーになる非常に大きな魅力の一つでしょう。
メリット(3):生きた経営力が身に付く
学びという意味でも、企業のオーナーになることにはメリットがあります。
優秀なサラリーマンの方から、「経営について学びたい」という声を聞くことがよくありますが、どれだけ熱心に経営ノウハウの本を読み漁りMBAに通い詰めたところで、実際のビジネスの場で通用する経営力が身に付くことは絶対にありません。
それらは経営をしてみた上でようやく理解できる抽象的な内容が体系的に記されているだけで、断じてそれ自体で自分の実力が上がるようなものではないのです。
受験勉強に例えて言えば、数学の定理だったり問題を解くに当たっての基本的な考え方が纏められている本です。そんなものだけ読んでも絶対に受験で出てくる問題はとけません。自分で、いくつも問題を解かないといけないんです。
結局のところ、自分で経営をして色々と失敗してみないことには生きた経営力は身につきません。
経営者としての実力をつけるという意味では、「個人で会社を買収してまずオーナーになってしまう」というのは最短ルートであることは間違いないでしょう。
メリット(4):老後に、「やりがいある活動」を続けることが出来る
老後の活動という観点からも個人による企業買収は価値があります。
年々日本人の平均寿命は伸び、定年退職後の「老後の」時間は益々長くなっていますが、サラリーマンとして企業に勤め上げた人の多くが退職後に強い虚無感に襲われています。
人生の大半の時間を注ぎ込み、自分の興味もやりがいも会社に存在しているのですから、急に会社を去れば手持ち無沙汰になってしまうのも仕方がないでしょう。
強い喪失感から定年退職後に鬱病になってしまう人や、急に脳を使わなくなることにより認知症の症状を発症する例も多いようです。
自分の会社を経営するというのは、この「老後の活動」という枠組みの中でも最もやりがいを感じられるものの一つでしょう。
実際私の知り合いにも91歳にして年商40億円ほどの企業のオーナーをしている人がいますが、90歳を超えているとは思えないほどエネルギッシュで、圧倒されます。
ボケたくない、という軽い動機で会社を経営してみるのも、悪くはないのではと思います。
メリット(5):起業に比べリスクが低い
これは、ゼロから起業する場合とすでにある会社を買収する場合との比較になりますが、起業に比べると比較的リスクが低いのが企業買収の特徴です。
完全な起業となった場合、10年後にも生き残っている会社は一般的に10%未満と言われています。ほとんどが潰れてしまうということですね。
ベンチャー起業へ投資するベンチャーキャピタル(VC)の事例を見てみても、とある優秀な成績を出しているVCが検討する案件の数は月に40件程度でその内実際に投資を行うのは1社、投資を行った中で上場か売却という成果を得られる起業は15% 程度とのことでした。
この数字だけ見てみても、ベンチャー企業が成功する確率というのは非常に低いことが分かるかと思います。
ベンチャーが成功しない原因は、市場の成長性の誤認、競合の存在、技術的な限界、採用、等々多岐に渡り、一様に語ることは出来ませんが、その大きくが3年以内に姿を消しているのです。
一方、10年20年と続く企業をM&Aによって買収した場合にはこうした、「全く予想もしていなかった要因で会社が急に潰れてしまう」というリスクが大きく抑えられます。それは企業が一番潰れやすい時期をすでに乗り越えているからです。
その企業にはすでに歴史があり、取引先があり、ブランドがあり、一定の技術があり、精通した社員もいます。
徐々に業績が悪化している場合もありますが、すでに資産が存在するため、新たな戦略によって容易に上向かせることが可能なのです。
メリット(6):起業に比べ企業勤めの経験が生きる
企業勤めをしている人が、完全にゼロから起業をするとなると今まで培ってきた能力を生かすことはほぼ不可能に近いでしょう。
サラリーマンの仕事と、ベンチャー企業の社長の仕事は似ても似つきません。柔道の経験を生かして卓球をやると言っているようなものです。
一方、企業勤めをしている人が中小企業のオーナーになるというのであれば、その限りではありません。ある程度、汎用的に使用できるスキルに似通った部分があります。
結局、サラリーマンの仕事というのは人と人との「調整」であり、10のものを12にしていくというような「改善」のプロセスです。
そして、この力こそ、M&Aで買収した企業を成功へと導く為に最も必要な能力なのです。地味なようですが、今ある取引先や社員をうまく調整してマネージし、そして少しずつ売り上げを伸ばしていく、この総合力こそが買収後には必要となります。
すでにある程度形になっているビジネスを引き継ぎ、それをより良くしていくという能力はサラリーマン生活を続けているうちに、知らず知らずのうちに磨かれていることが多いのです。
これは実際にM&Aをしたサラリーマンを見ていてもよく思います。
M&Aによる企業買収は、起業と比べ企業勤めの経験が生きると言えるでしょう。
まとめ
個人が企業を買ってオーナーとなることには、金銭的なリスクが存在しますが、一方で上述したような利点が存在します。
自分の力で勝負してみたい、本当の経営力を身に付けたい、という方は、積極的にチャレンジしてみることをお勧めします。